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名古屋地方裁判所 昭和39年(ヨ)1238号 判決 1965年8月16日

申請人 刈谷俊景

被申請人 豊国機械工業株式会社 外一名

主文

被申請人豊国機械工業株式会社は申請人に対し、金六二、五三二円を支払え。

申請人のその余の申請を却下する。

訴訟費用中申請人と被申請人豊国機械工業株式会社との間に生じた部分は被申請人豊国機械工業株式会社の負担とし、その余の部分は申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

(申立)

一  申請人の申立

被申請人豊国機械工業株式会社(以下被申請人会社と略称する)は申請人に対して金一一〇、四六四円を仮に支払え。

被申請人全国金属産業労働組合同盟愛知金属労働組合豊国機械工業労働組合(以下被申請人組合と略称する)の申請人に対する昭和三九年六月二二日附組合員除名処分の効力を停止する。

訴訟費用は被申請人らの負担とする。

二  被申請人会社の申立

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

三  被申請人組合の申立

本件申請を却下する。

(申請の理由)

第一、一 申請人は、被申請人会社の従業員であるが、昭和三八年一一月三〇日附で被申請人会社から、懲戒解雇にする旨の言渡を受けた。

二 申請人は、右解雇に該当する行為を為したことがないので、右懲戒解雇は無効である。

三 申請人は、被申請人会社を相手どり、当庁へ右懲戒解雇の効力停止の仮処分申請をなした。当庁は右申請を昭和三九年(ヨ)第三八号事件として審理し、昭和三九年六月二二日、被申請人が申請人に対して昭和三八年一一月三〇日附にて言渡した懲戒解雇の意思表示の効力を申請人が被申請人に提起すべき本案判決確定に至るまで停止する。

旨の判決の言渡をなした。

四 申請人は同月二三日被申請人会社に復職した。しかし被申請人会社は、昭和三八年一一月三〇日から昭和三九年六月二三日までの間申請人の就労を拒否し、右期間の賃金を支払わない。

五 右期間中の申請人の受けるべき賃金は次のとおりである。

(一) 申請人は、昭和三八年九月分金八、八七五円(就労日数二〇日)同年一〇月分金一〇、一二四円(就労日数二三日)同年一一月分金八、二五五円(就労日数一七日)の賃金を被申請人会社から受領した。従つて三ケ月分の賃金の平均は金九、〇八八円(就労日数の平均二〇日)である。

(二) 被申請人会社は、昭和三九年三月一日から全従業員に対し昇給を行つた。これによれば、申請人は、時給六〇円、通勤手当一日金三〇円、皆勤手当一ケ月金六〇〇円の割合による賃金を受けることになる。

(三) 被申請人会社は、昭和三八年年末一時金として金二〇、〇〇〇円、昭和三九年夏季一時金として金二〇、〇〇〇円を申請人と同年令、同時入社の従業員に支給しており、申請人は右と同額の一時金を受ける権利を有する。

(四) (イ) 昭和三八年一二月分、昭和三九年一月分及び同年二月分の賃金の合計は、

9,088(平均賃金)×3=27,264

即ち二七、二六四円である

(ロ) 昭和三九年三、四、五、六各月分の賃金の合計は、

(〔60(時給)×8(1日の労働時間)+30(通勤手当)〕×20(1ケ月平均の就労日数)+600(皆勤手当))×4=43,200即ち四三、二〇〇円である。

(五) 右(三)(四)の合計一一〇、四六四円が申請人の受けるべき賃金である。

六 申請人は前記解雇の言渡を受けた後復職するまでの間、失業保険金や、他から金員を借り受けるなどして生活をしてきたが、前記賃金は申請人にとつては大金であり、従前の生活の始末をするなど緊急、必要な事由があり、本案判決の確定を待つことは、申請人としては堪えがたいことである。

第二、一 被申請人組合は、昭和三九年六月二三日申請人に対し、申請人が被申請人組合及びその執行部を批判し、誹謗したとの理由で除名処分にした旨通告をなした。

二 右処分は、次の理由により無効である。

申請人は、被申請人組合の組合員ではない。申請人は、前記解雇当時、被申請人会社の従業員で組織された全国金属労働組合豊国機械工業支部(以下申請外組合と略称する)に加入していた。ところで被申請人組合は、申請人が解雇された後、申請外組合の組合員の一部によつて結成されたものであり、申請人は、被申請人組合に加入していない。又申請人は、被申請人組合及びその執行部を批判したり、誹謗した事実はない。

三 被申請人会社は、右除名処分を理由に、申請人を本工として取扱わない旨、申請人に対して述べている。従つて除名処分の効力の停止を求める必要がある。

(被申請人会社の答弁及び主張)

第一、申請の理由第一について

一  一項の事実は認める。

本件解雇の理由は次のとおりである。

(1) 申請人は、昭和三八年九月中旬ころ、被申請人会社従業員古畑操に対し、民青に加入するよう執拗に強要し、それにより右古畑を極度に畏怖させ、よつて右古畑を被申請人会社から退職せしめた。

(2) 被申請人会社の申請人に対する懲戒委員会の席上、申請人は、就業規則及び労働協約は会社が一方的に作つたものであるからこれに従う要はない旨の暴言を吐いた。

申請人の右(1)の行為は、就業規則第七〇条第二号、表彰懲戒委員会規則第一三条第二号に、右(2)の行為は、就業規則第七〇条第三号、表彰懲戒委員会規則第一三条第三号に各該当するので、被申請人会社は、表彰懲戒委員会の議を経て、懲戒解雇処分をなした。

二  二項の事実は否認する。

三  三項の事実は認める。しかし前記仮処分事件は現在名古屋高等裁判所に係属し審理中であり、従つて申請人の被保全権利は必ずしも確定していない。

四  四項の内、申請人が昭和三九年六月二三日復職した事実は認めるがその余の事実は否認する。

五  五項の事実について、

(一) 同項(一)について、被申請人が申請人に対して解雇前三ケ月間に支払つた賃金は、

昭和三八年九月分 金八、二二五円 就労日数二〇日

同年一〇月分   金九、四六五円 就労日数二三日

同年一一月分   金七、六〇九円 就労日数一七日

であり、従つて申請人の右三ケ月の賃金の平均は、金八、四三三円である。又前記支給金額には、出勤日数一日につき金三〇円の割合による通勤手当が含まれている。

(二) 同項(二)について、申請人は、被申請人に対し、申請人の賃金を昇給する旨の意思表示をなしていない。皆勤手当は皆勤した場合に支給されるものであり、申請人の平均出勤日数は、一ケ月間に二〇日であり、これまで皆勤した事実はない。

(三) 同項(三)の一時金について、申請人に支給される一時金の額は、昭和三八年年末一時金は金一三、六六九円、昭和三九年夏期一時金は一、七二一円である。

(四) 同項(四)について、申請人の昭和三八年一二月から昭和三九年六月までの賃金の合計は、

8,433(平均賃金)×7(月数)=59,031(被申請人会社答弁書第三、一、(一)3(イ)項に8433×7=9,031とあるのは誤記と認められる)であるが、通勤手当は現実に出勤した日数について支払われるものであるからその額

30(通勤手当の日額)×20(平均就労日数)×7(月数)=4,200

を控除しなければならない。従つて、申請人の受くべき前記期間の賃金の合計は計算上金五四、八三一円である。ところで被申請人会社は、昭和三九年七月一〇日、同年六月二三日から同月末日までの賃金金三、三三〇円を申請人に支払つているので、更に前記金額から右金額を控除すべきであり、結局その金額は金五一、五〇一円となる。

(五) 申請人の受くべき金員は(三)(四)の合計額金六六、八九一円である。

六  六項の事実は争う。申請人は、昭和三八年一二月一日から昭和三九年六月二二日までの間、名古屋南公共職業安定所から合計金四六、八〇〇円の失業保険金を受領し、現在は被申請人会社から所定の賃金を受領している。従つて本件申請について必要性はない。

第二、申請の理由第二について

一  申請人が、被申請人組合から除名処分を受けたこと、それにより本工員の地位を失つたことは認める。その余の事実は知らない。

二  組合員の除名は、組合員と組合との間の問題であり、被申請人会社に対し、本工員たる地位の保全を求めるのであれば格別、組合の除名処分の効力の停止を求める本件申請については、被申請人会社との間では被保全権利は存しない。又必要性もない。

(被申請人組合の答弁及び主張)

申請の理由第二について

一、一項の事実は認める。

二、二項の内、申請人が、解雇当時申請外組合に加入していた事実は認める。その余の事実は争う。

三、三項の事実は知らない。

四、申請人は、本件除名処分がなされた当時申請人は被申請人組合の組合員でなかつた旨主張している。右主張によれば、申請人は本件除名処分により法律上何ら不利益を蒙むるものではない。従つて本件除名処分の効力を争う利益はなく、本件申請について被保全権利はない。又本件除名処分の効力の停止を求める法律上の利益もない。

五、申請人は、被申請人組合の組合員であつた。

申請外組合は被申請人会社の従業員で組織された労働組合で、全国金属労働組合(以下全金と略称する)を上部団体としていた。しかし、昭和三九年二月一九日の臨時組合大会において圧倒的多数の賛成により、同日限り全金を脱退し、同時に上部団体として日本労働組合総同盟(以下総同盟と略称する)に加入すること、組合の名称を日本労働組合総同盟豊国機械工業労働組合とすることが決議されその旨決定した。

従つて、申請外組合と被申請人組合は同一の団体であり単に名称を変更したにすぎない。

申請人は申請外組合に加入していたのであるから、当然被申請人組合の組合員である。

六、本件除名の理由は次のとおりである。

(1)  申請人は昭和三九年一月二〇日ころ被申請人会社の就業開始前に、被申請人会社工場の門前において、「不当首切り反対の第一回裁判開く」と題し、「全金の方針にもとづいて春斗を斗いましよう。その為には今までのような組合員の知らないうちに執行部と会社とこつそりと取引きをして一切を決めてしまうようなやり方はこのさい止めねばいけないと思います。」「執行部の口先だけのやり取りではなく春斗は全組合員の皆んなの力で斗いましよう」と記載されたビラ約二〇〇枚を配布した。

(2)  申請人は同年四月二一日就業開始前に、被申請人会社工場正門前において、「ボウチヨウ席であわて狂う会社側と組合幹部」という見出しのもとに「会社側の証人が法廷に立ち、じん問を受けているうちに、次々とボロを出し始め、それにあわてたのは会社側と組合幹部で、組合幹部はさかんに「そんなことを云つてはまずい、まずい」とあわて……」「その時の情態こそハツキリと会社側と組合幹部がいかにグルになつているかを自らバクロしたのです」と記載されたビラ約二〇〇枚を配布した。

(3)  申請人は同年五月二六日午前七時ころ被申請人会社工場門前において、「現在の組合幹部は労働者の代表ではない会社の手先だ!!」との見出しのもとに「私が法廷の中で真実を訴え、労働者の生活と権利を守るタメに証言している時、ボウチヨウしていた会社側はヒツソリしているにもかかわらず、会社のかわりになつて組合三役はさかんにヤジつていました。デツチ上げ不当首切りをした上こんどは真実の証言をしている私の防害をしようとするこの悪らつさ、やがては組合をブツツブスことまでやりかねるでしよう。こんなことは豊国だけに特に起たのではなく全国各地でおきています。組合ハカイ分裂を押し進める分裂主義者なのです。もはや労働者の敵なのです。」と記載したビラ約二〇〇枚を配布した。

(4)  右記載内容は、事実を捏造し、真実を曲げて書かれたものであり、被申請人組合執行部及び被申請人組合を誹謗し且つその名誉を傷つけるものであり、又真実に反し組合役員などが会社側とグルになり組合員を裏切つているなどと宣伝するに至つては重大なる統制違反行為である。

そこで被申請人組合は、昭和三九年六月二二日臨時組合大会を開催し、申請人の前記行為は被申請人組合労働組合規約第五一条第一号第三号に該当するとの理由で本件除名処分の決議をなした。

(被申請人の主張に対する申請人の答弁)

一、被申請人組合主張五項について、訴外組合と被申請人組合は、性格の異つた組合である。

二、同六項について、申請人が被申請人組合主張の日時場所においてビラを配布した事実は認めるが、配布数は争う。

ビラの内容は、被申請人組合を誹謗したり、その名誉を傷つけたりするものではない。又真実に基づいた正当な批判である。

(証拠省略)

理由

第一、被申請人会社に対する賃金仮払申請について

一、申請人は、被申請人会社の従業員であつたところ、昭和三八年一一月三〇日附で被申請人会社から懲戒解雇の言渡を受けた。しかし昭和三九年六月二二日当庁において申請人主張の如き判決が言渡され、申請人は同月二三日復職した事実は当事者間に争はない。

二、ところで前記仮処分命令は、本件において当然に当裁判所を拘束するものではないので本件懲戒解雇の適否につき判断する。

(一)  解雇の理由(1)について

成立に争のない甲第四号証(近藤鏡治郎の証人調書)、甲第五号証(田中元司の証人調書)(いずれも後記措信しない部分を除く)によれば、申請人は古畑操に対し、民青へ加入するよう勧誘した事実、古畑操は、昭和三八年一一月中旬ころ被申請人会社を退職した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかし右各証拠の内、申請人が古畑操に対し、民青への加入を強要した旨の供述部分はたやすく措信できず、他に被申請人会社主張の解雇の理由(1)の事実を認めるに足る証拠はない。

(二)  被申請人会社主張の解雇の理由(2)についても、被申請人会社の主張する事実を認めるに足る証拠はない。

(三)  以上のとおり、申請人につき、懲戒解雇の事由に該当する事実が認められず、本件懲戒解雇は無効である。

三、証人柴田仲治の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件解雇後復職までの間、被申請人会社は申請人の労務の提供の受領を拒否しその間の賃金を支払つていない事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そこで右期間の賃金の額について判断する。

(一)  被申請人会社は、一日金三〇円の割合による通勤手当も含めて、昭和三八年九月分金八、二二五円、同一〇月分金九、四六五円、同一一月分金七、六〇九円の賃金を申請人に支払つた旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はなく、申請人本人尋問の結果によると、被申請人会社は、右各月分としてそれぞれ金八、八七五円、金一〇、一二四円、金八、二五五円の賃金を申請人に支払つた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そして申請人の一ケ月の平均就労日数が二〇日であることは当事者間に争はない。従つて、右三ケ月の申請人の賃金の平均は月額金九、〇八四円である。

(二)  申請人は、昭和三九年三月一日から昇給すべきである旨主張し、被申請人会社は、申請人に対しては昇給の意思表示をなしていない旨主張しているのでこの点につき判断する。

申請人会社は、全従業員に対し昭和三九年三月一日から昇給を行つたことについて、被申請人会社は明らかに争わないので自白したものとみなす。

本件懲戒解雇は前記認定の如く無効であるから、申請人は、本件懲戒解雇がなされなかつたと同様の地位を有するものである。そして、本件懲戒解雇がなされなかつたならば、特別の事情のない限り、申請人についても他の従業員と同様に昇給したものと考えられる。又前記の如く仮処分命令により申請人は復職したのであるが、このような場合労働条件については、他の従業員と同様に取扱わねばならず、解雇後復職までの間に労働条件が改訂された場合は、改訂された労働条件に従つて処遇されなければならない。このことは賃金についても同様で、労働契約の集団的性格から考え特別の事情のない限り他の従業員と同様に処遇されなければならない。従つて申請人につき、昇給を停止しなければならないような特別の事由の認められない本件において、申請人についても昭和三九年三月一日から昇給したものとして取扱わねばならず、被申請人会社の、申請人に対しては昇給の意思表示をなしていない旨の主張は採用し得ない。

成立に争のない甲第六号証、証人柴田仲治の証言により成立の認められる乙第五号証及び申請人本人尋問の結果によれば、申請人の昇給後の賃金は時給六〇円であることが認められ、成立に争のない乙第二号証の一乃至三及び弁論の全趣旨によれば、申請人の一日の平均労働時間は八時間であり、一ケ月の平均就労日数は二〇日であることが認められ、以上各認定に反する証拠はない。従つて申請人の昭和三九年三月一日以後の一ケ月の賃金は計算上金九、六〇〇円となる。

(三)  通勤手当については、それが実費弁償としての性格を有するものと解するところ、証人柴田仲治の証言によれば被申請人会社においては、従業員が現実に出勤した場合にそれに対し一日金三〇円の割合による通勤手当を支払つていることが認められ右認定に反する証拠はない。そして、昭和三九年三月一日以後復職するまでの間申請人が被申請人会社へ出勤した事実を認めるに足る証拠はない。従つて申請人は、被申請人会社に対し右期間の通勤手当を請求する権利を有しない。

又皆勤手当は、その性質上皆勤した従業員に支払われるものであるものと解するところ、申請人本人尋問の結果によつても被申請人会社では皆勤した者に皆勤手当を支払つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。ところで、昭和三九年三月一日以後復職するまでの間に申請人が皆勤した事実を認めるに足る証拠はない。又本件解雇がなされる以前に申請人が皆勤した事実を認めるに足る証拠はなく、成立に争のない乙第二号証の一乃至三及び弁論の全趣旨によれば、申請人の過去の一ケ月の平均就労日数は二〇日であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実を綜合すると本件解雇がなされなかつたとしても、申請人は前記期間皆勤したであろうとは認められない。従つて、申請人は被申請人会社に対し前記期間の各月の皆勤手当を請求する権利を有しない。

(四)  以上認定の事実によれば、昭和三八年一二月分から昭和三九年二月分までの申請人各月の賃金の合計は計算上金二七、二五二円、又昭和三九年三月分から同年六月分までの申請人の各月の賃金の合計は計算上金三八、四〇〇円となり、その合計は金六五、六五二円となる。申請人本人尋問の結果及び成立に争のない甲第六号証によれば被申請人会社は申請人に対し昭和三九年六月二三日から同月末日までの賃金として金三、三三〇円を支払つた事実、右金額には金二一〇円の通勤手当が含まれていることが認められ右認定に反する証拠はない。従つて申請人が被申請人に請求しうる本件解雇後復職までの間の各月の賃金の合計は計算上金六二、五三二円となる。

四、申請人は昭和三八年一二月一日から昭和三九年六月二二日までの間失業保険金の支払を受けていたことは当事者間に争はなく、証人柴田仲治の証言により成立の認められる乙第六号証によれば、右期間に申請人が支払を受けた失業保険金の総額は金四六、八〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。又証人柴田仲治の証言及び弁論の全趣旨によれば、申請人は復職後被申請人会社から所定の賃金の支払を受けていることが認められ右認定に反する証拠はない。一方弁論の全趣旨によれば、申請人は他に資産を有せず賃金を唯一の収入としている若年の労働者であり、本件解雇後復職するまでの間困窮した生活を送りその間その生活を維持するために相当の苦労と犠牲をはらつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。以上認定の事実を綜合すると、申請人が前記認定額の賃金を仮に支払われるべき必要性があるものと認められるが、年末一時金及び夏季一時金の支払を受けなければならない程の必要性は認められない。

第二、被申請人組合の除名処分の効力の停止申請について

申請人は、本件除名処分の無効の理由として、申請人が被申請人組合の組合員でない旨主張している。右主張によれば、申請人は、被申請人組合に対し、被申請人組合の組合員たる地位の確認を求める権利を有しないことは勿論、本件除名処分が無効であるとの確認を求める利益も有しないと考える。又被申請人会社に対しても本件除名処分が無効であることの確認を求める利益を有しない。よつて本件除名処分の効力の停止を求める申請については、被保全権利の主張立証を欠くものとして、その余の点について判断するまでもなく失当である。

第三、よつて本件申請の内、金六二、五三二円の限度における賃金の仮払いを求める部分は理由があるので認容し、その余の部分については理由がないので却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 浅野達男 寺崎次郎)

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